岡山地方裁判所 平成11年(ワ)72号 判決 2000年6月19日
甲事件原告
大賀峯子
ほか一名
被告
田中玲子
ほか三名
乙事件原告
住友海上火災保険株式会社
被告
大賀峯子
ほか一名
主文
一 甲事件被告田中玲子は、甲事件原告大賀峯子に対し、金四〇一万一五六六円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 甲事件被告田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇は、甲事件原告大賀峯子に対し、それぞれ金一三三万七一八八円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 甲事件被告田中玲子は、甲事件原告大賀静子に対し、金二〇〇万五七八三円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 甲事件被告田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇は、甲事件原告大賀静子に対し、それぞれ金六六万八五九四円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 乙事件被告大賀峯子は、乙事件原告に対し、金三二万円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 乙事件被告大賀静子は、乙事件原告に対し、金一六万円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 甲事件原告ら、乙事件原告のその余の各請求をいずれも棄却する。
八 訴訟費用の負担は次のとおりとする。
1 甲事件原告らに生じた分を一〇分し、その七を甲事件原告らの負担とし、その二を甲事件被告らの負担とし、その余を乙事件原告の負担とする。
2 甲事件被告らに生じた分を四分し、その一を甲事件被告らの負担とし、その余を甲事件原告らの負担とする。
3 乙事件原告に生じた分を五分し、その三を乙事件原告の負担とし、その余を乙事件被告らの負担とする。
九 この判決は、第一項ないし第六項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 甲事件
1 甲事件被告田中玲子は、甲事件原告大賀峯子に対し、金一六九三万九〇〇九円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 甲事件被告田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇は、甲事件原告大賀峯子に対し、それぞれ金五六四万六三三六円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 甲事件被告田中玲子は、甲事件原告大賀静子に対し、金八四六万九五〇四円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 甲事件被告田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇は、甲事件原告大賀静子に対し、それぞれ金二八二万三一六八円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件
1 乙事件被告大賀峯子は、乙事件原告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 乙事件被告大賀静子は、乙事件原告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した大賀常弘の相続人である甲事件原告らが、田中義朗に対し、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案(甲事件。なお、田中義朗は、本件訴訟が係属中に死亡し、甲事件被告田中玲子、同田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇がその地位を承継した。)、及び、右事故による車両損害に対して保険金を支払った乙事件原告が、大賀常弘の相続人である乙事件被告らに対し、保険代位により求償を求める事案(乙事件)である。
なお、甲事件の付帯請求は、本件事故の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金であり、乙事件の付帯請求は、保険金支払の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
二 争いのない事実等(1から4までは当事者間に争いがない。)
1 本件事故の発生
(一) 発生日時
平成八年二月一七日午前一時二〇分ころ
(二) 発生場所
岡山市藤田五六四番地の二〇九先 信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 争いのない範囲の事故態様
大賀常弘(本件事故当時満五二歳)の運転する普通貨物自動車(岡山四一に一一二五。以下「大賀車両」という。)と、田中義朗(本件事故当時満四八歳)の運転する普通乗用自動車(岡山三三ひ七五一五。以下「田中車両」という。)とが、本件交差点内で衝突した。
2 田中義朗は、田中車両の運行供用者である。
3 大賀常弘は、本件事故のため、事故当日の平成八年二月一七日午前二時五七分に死亡した。
そして、同人の相続人は、妻である甲事件原告大賀峯子(相続分三分の二)と、母である甲事件原告大賀静子(相続分三分の一)の両名である。
4 田中義朗は、平成一一年一二月二四日に死亡した。
そして、同人の相続人は、妻である甲事件被告田中玲子(相続分二分の一)と、子である甲事件被告田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇(相続分各六分の一)である。
5 本件事故により、田中車両には修理費金二〇〇万円を超える損害が生じたが、その時価相当額は金一二〇万円であるから、右金一二〇万円が本件事故による田中車両の損害というべきである(乙第二号証、第四号証の一ないし四により認められる。)。
そして、乙事件原告は、訴外田中板金工業有限会社と田中車両についての車両保険契約を締結していたが、平成八年三月二九日、同社に対し、右保険契約に基づき保険金二一〇万円を支払った(乙第五号証、第七号証により認められる。)。
三 争点
本件の主要な争点は、次のとおりである。
1 本件事故の態様
2 1を前提に、大賀常弘、田中義朗の過失の有無、及び、過失相殺の要否、程度。
3 大賀常弘に生じた損害額。
4 乙事件原告が保険代位により取得した債権額。
四 争点1及び2に関する当事者の主張
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
本件交差点は、ほぼ南北に走る道路(北は当新田に至り、南は灘崎町に至る道路)と、ほぼ東西に走る道路(東は国道三〇号線に至り、西は東畦に至る道路)とが交わる十字路である。
そして、南北道路については、本件交差点手前に一時停止の交通規制がある。
2 甲事件原告・乙事件被告らの主張
(一) 本件事故の直前、大賀車両は、本件交差点を西から東へ直進しようとしていた。また、田中車両は、本件交差点を南から北へ直進、あるいは、南から東へ右折しようとしていた。
そして、田中義朗は本件交差点手前で一時停止することなく、漫然と時速六〇キロメートル以上の速度で田中車両を本件交差点に進入させたため、本件事故が発生した。
なお、田中義朗は、本件事故当時、飲酒運転であった。
(二) 右事故態様に照らすと、田中義朗は、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条により、大賀常弘に生じた損害を賠償する責任がある。
(三) 他方、大賀常弘には本件事故に対する過失はなく、仮に何らかの過失があった場合には、甲事件原告・乙事件被告らは、過失相殺を主張する。
なお、大賀常弘は、本件事故当時、無免許運転をしていたが、無免許運転は行政取締法規違反であって、この事実は運転知識の欠如や運転技術の未熟等を推認させることがあっても、直ちに具体的注意義務違反である過失を推認させるものではない。
そして、大賀常弘は免許取消しにより無免許になったのであるから、同人に、運転知識の欠如や運転技術の未熟があったわけではない。
したがって、同人の無免許運転の事実は、過失相殺として考慮されるべきではない。
3 甲事件被告ら、乙事件原告の主張
(一) 本件事故の直前、大賀車両は、本件交差点を北から南へ直進、あるいは、北から西へ右折しようとしていた。また、田中車両は、本件交差点を西から東へ直進しようとしていた。
そして、大賀常弘は本件交差点手前で一時停止することなく、漫然と大賀車両を本件交差点に進入させたため、本件事故が発生した。
なお、大賀車両は、本件事故当時、無灯火であった。
(二) 右事故態様に照らすと、大賀常弘は、民法七〇九条により、田中車両に生じた損害を賠償する責任がある。
(三) 他方、田中義朗は飲酒運転ではなく、本件事故に対する過失はない。
したがって、田中義朗には、自動車損害賠償保障法三条但書所定の免責事由があるから、本件事故に対する責任はなく、仮に何らかの過失があった場合には、甲事件被告らは、過失相殺を主張する。
五 口頭弁論の終結の日
本件の口頭弁論の終結の日は平成一二年四月二四日である。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の事故態様)
1 甲第三、第四号証(ただし、いずれも後記採用することのできない部分を除く。)、第八号証中の写真計二〇葉、第一〇号証、乙第一号証の二、第二号証、第四号証の一、証人亀井勝太郎の証言、承継前甲事件被告田中義朗の本人尋問の結果(ただし、後記採用することのできない部分を除く。)によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに次の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点は非市街地にあり、南北道路・東西道路ともに、片側各一車線、両側合計二車線の平坦なアスファルト舗装の道路で、このほかに、いずれも両側に歩道がある。
そして、本件交差点には大きく角切りが取られているが、本件交差点の角切りの部分及び南北道路・東西道路の両側の本件交差点に近い部分には、高さ約一・六メートルのフェンスが設けられているため、本件交差点が夜間は暗いことともあいまって、東西道路及び南北道路の相互の見通しは悪い。
(二) 本件事故に至るまで、田中義朗は、大賀車両をまったく認識していない。
(三) 本件事故の衝撃により、大賀車両は、本件交差点の北東側の車道と歩道とを区分する縁石付近に、北方向を向いて、右側を下にして、横転して停止した。そして、その下側(運転席側)と路面との間に、大賀常弘は挾まれた状態となった。
また、田中車両は、本件交差点の北東側で、その左後部を大賀車両の前部と接するような状態で、南西方向を向いて、停止した。
なお、右状態は、本件事故後の通報により警察官、救急隊員が本件交差点に到着した時点以降まで続き、救急隊員により大賀常弘は救出されたが、ほぼ即死に近い状態であった。
(四) 本件事故の衝撃により、本件交差点の中央部から北東部にかけて、ライトやウィンカーの破片、金属片などが散乱した。
また、本件事故後に警察の担当者として本件交差点に到着した亀井勝太郎は、本件交差点の中央部から北東へ向かって長さ約一メートルの薄いスリップ痕を認めた。
(五) 本件事故により、大賀車両は、右前部凹損、両前照灯破損、前バンパー脱落、右前輪曲損の損傷を受けた。また、大賀車両の右前扉に、田中車両のものと思われる青色塗料が付着した。
また、本件事故により、田中車両は、前部左側凹損の損傷を受けた。また、田中車両の左前フェンダーに、大賀車両のものと思われる白色塗料が付着した。
2 右認定事実を前提に、甲第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一、二、乙第一〇号証(いずれも本件事故に関する工学的な事故分析書)を検討すると、これらがいうとおり、本件事故の直前、大賀車両は西から本件交差点に進入し、田中車両は南から本件交差点に進入したこと、本件交差点のほぼ中央で、大賀車両の右側面前部と田中車両の左前部とが衝突したこと、本件事故時点における両車両の車両縦軸の角度は約八〇度であったことを認めることができる。
3(一) 右認定に反し、甲事件被告ら、乙事件原告は、本件事故の直前、大賀車両は北から本件交差点に進入し、田中車両は西から本件交差点に進入した旨主張する。
また、甲第三、第四号証によると、本件事故の直後に行われた実況見分及び平成八年二月二七日に行われた実況見分の際、田中義朗が警察官に対して右同旨の説明をしたことが認められ、承継前甲事件被告田中義朗の本人尋問の結果の中には、右主張に副う部分がある。
しかし、甲第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一、二、乙第一〇号証に照らすと、右主張のような両車両の進行方向は、右判示の客観的に明らかな両車両の衝突部位、両車両の本件事故後の停止位置との間に、物理的に説明することができない矛盾が生じるというべきであるから、右主張に副う前記各証拠を採用することはできない。
(二) 甲第三号証、第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一、二、乙第一〇号証、弁論の全趣旨によると、本件事故直後に行われた実況見分調書に、両車両の部品の散乱状況、路面の痕跡などが記載されていないために、両車両の正確な衝突地点を確定することができないこと、このために、両車両の本件事故当時の速度を推定するに際し、さまざまの要因を擬制する必要があることが認められる。そして、これらに照らすと、甲第二〇号証の二、三のいう大賀車両の速度は六四・四キロメートル毎時(本件事故後、田中車両がブレーキをかけなかったとすると五三・五キロメートル毎時)、田中車両の速度は五八・八キロメートル毎時(前同様の条件では四三・八キロメートル毎時)との分析(甲第二〇号証の一に計算の過誤があったため、訂正したもの。)、乙第一〇号証のいう大賀車両の速度は六〇ないし六五キロメートル毎時、田中車両の速度は四五ないし五〇キロメートル毎時との分析は、いずれも相当な擬制の下での許容される範囲内の分析であるとするのが相当である。
したがって、両車両の本件事故当時の速度は、右判示の幅の範囲内のものであったと認めることとする。
(三) 甲事件原告・乙事件被告らは、田中義朗が本件事故当時に飲酒運転であった旨主張する。
しかし、これを認めるに足りる証拠はまったく存在しない。
また、甲事件被告ら、乙事件原告は、本件事故当時、大賀車両が無灯火であった旨主張し、承継前甲事件被告田中義朗の本人尋問の結果の中には、右主張に副う部分がある。
しかし、右本人尋問の内容は、結局、本件事故に至るまで田中義朗が大賀車両を認識していなかったというのと同義にすぎず、夜間、暗い道路を、大賀車両が無灯火で前記認定のような速度で走行していたとはおよそ考えがたいから、右証拠を採用することはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
二 争点2(大賀常弘、田中義朗の過失の有無、及び、過失相殺の要否、程度)
争点1に対する判断で認定判示した本件事故の事故態様を前提に、争点2について検討する。
1 右認定事実によると、田中義朗は、本件交差点に南から進入するに際し、一時停止の交通規制に従わず、少なくとも四〇キロメートル毎時を充分に超える速度で、漫然と田中車両を運転し、しかも、本件事故に至るまでまったく大賀車両を認識していなかったというのであるから、同人に過失があることは明らかである。
したがって、甲事件被告らの自動車損害賠償保障法三条但書所定の免責の抗弁は理由がない。
2 また、車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)ところ、大賀車両も、前記のとおり見通しの悪い本件交差点を、相当な高速度で走行していたということができるから、大賀常弘の過失も優に認めることができる。
なお、大賀常弘が、本件事故当時、免許取消しのために無免許運転であったことは甲事件原告らが自認するところである。
ところで、免許取消しは、免許を受けた者が一定の免許欠格事由に該当する者になった場合(道路交通法一〇三条一項)、免許を受けた者が道路交通法に違反する行為を重ねて、それが一定の基準に達した場合(同条二項、同法施行令三八条一項一号)になされる処分である。
そして、大賀常弘が免許取消しの処分を受けたことから、同人について、運転知識の欠如や運転技術の未熟等を推認することは容易であり、同人の過失の内容が、前記のとおり、見通しの悪い本件交差点を相当な高速度で走行していたことに照らすと、同人の運転知識の欠如や運転技術の未熟等が、右過失の一因となっていることも明らかである。
したがって、過失相殺の程度を判断するにあたっては、同人の無免許運転の事実も当然に考慮するものとする。
3 右判示の田中義朗及び大賀常弘の各過失の内容によると、いずれも重大なものとして看過することができないが、一時停止の交通規制に従わなかった田中義朗の過失の方が相対的に大きいというべきであって、具体的には、本件事故に対する過失の割合を、田中義朗が六〇パーセント、大賀常弘が四〇パーセントとするのが相当である。
三 争点3(大賀常弘に生じた損害額)
争点3に関し、甲事件原告らは、別表の請求欄記載のとおり主張する。
これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を大賀常弘の損害として認める。
1 損害
(一) 治療費
当事者間に争いがない。
(二) 葬祭費
弁論の全趣旨によると、大賀常弘の死亡により、甲事件原告らが葬祭費の支出を余儀なくされたことが認められ、前記判示の当事者間に争いのない同人の年齢、後記認定の同人の職業等に照らすと、金一二〇万円をもって、本件事故と相当因果関係のある葬祭費とするのが相当である。
(三) 事故調査費
甲第三、第四号証、第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一、二によると、本件事故に対する当初の警察の捜査では、本件事故の直前、大賀車両は北から本件交差点に進入し、田中車両は西から本件交差点に進入したとされていたこと、甲事件原告らは、右捜査の結果に疑問を抱き、吉川泰輔に工学的な事故の解析を依頼したこと、この結果、右捜査の結果と異なる事実が判明したことが認められる。
そして、これらに照らすと、甲事件原告らの負担した事故調査費は、本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきである。
なお、甲事件原告らの負担した具体的な事故調査費の金額を認定するに足りる証拠はない。
しかし、右各証拠の内容に照らすと、少なくとも甲事件原告らが主張する金二五万円の支出を優に認めることができる。
(四) 死亡による逸失利益
甲第一三ないし第一五号証、第一八号証、弁論の全趣旨によると、大賀常弘は、平成七年三月一日から、とりごえ食品株式会社岡山工場に勤務していたこと、同人の平成七年の申告総所得金額は金五九八万五二一六円であること、同人の子は大賀優子、寺門雅子の二名であること、右二名の住所地は大賀常弘及びその妻の甲事件原告大賀峯子とは異なること、右二名は、大賀常弘の相続に関し相続放棄をしたこと、これにより、大賀常弘の母である甲事件原告大賀静子が相続人となったこと、同人の住所地も大賀常弘とは異なることが認められる。
そして、これらによると、大賀常弘の死亡による逸失利益を算定するにあたっては、年間金五九八万五二一六円を下らない収入が満六七歳までの一五年間継続するものとして、生活費として三五パーセントを控除し、中間利息の控除についてライプニッツ方式(一五年に相当するライプニッツ係数は一〇・三七九六)によるのが相当である。
したがって、同人の死亡による逸失利益は、次の計算式により、金四〇三八万〇六九六円となる(円未満切り捨て。以下同様。)。
計算式 5,985,216×(1-0.35)×10.3796=40,380,696
(五) 慰謝料
前記認定の本件事故の態様、これにより生じた結果、大賀常弘の年齢、家族構成、その他本件に現われた一切の事情を考慮すると、本件により生じた大賀常弘及び甲事件原告らの精神的損害を慰謝するには、金二六〇〇万円をもってするのが相当である。
(六) 小計
(一)から(五)までの合計は金六七八九万一一六六円である。
2 過失相殺
争点2に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する大賀常弘の過失の割合を四〇パーセントとするのが相当である。
したがって、右割合により過失相殺を行うと、次の計算式により、金四〇七三万四六九九円となる。
計算式 67,891,166×(1-0.4)=40,734,699
3 損害の填補
甲事件原告らが、自動車損害賠償責任保険手続において金三〇〇〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。
したがって、過失相殺後の金額から右金額を控除すると、金一〇七三万四六九九円となる。
4 弁護士費用
甲事件原告らが本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、甲事件被告らが負担すべき弁護士費用を金一三〇万円とするのが相当である。
5 相続
よって、3と4との合計は金一二〇三万四六九九円となる。
そして、争いのない事実等3記載のとおり、大賀常弘の相続人は、妻である甲事件原告大賀峯子(相続分三分の二)と、母である甲事件原告大賀静子(相続分三分の一)の両名であるから、甲事件原告大賀峯子の取得する債権額は金八〇二万三一三二円、甲事件原告大賀静子の取得する債権額は金四〇一万一五六六円となる。
また、争いのない事実等4記載のとおり、田中義朗の相続人は、妻である甲事件被告田中玲子(相続分二分の一)と、子である甲事件被告田中理津子、同田中美樹、同田中靖崇(相続分各六分の一)であるから、各人の負担する債務額は次のとおりとなる。
(一) 甲事件原告大賀峯子に対して
(1) 甲事件被告田中玲子は金四〇一万一五六六円
(2) その余の甲事件被告らは、それぞれ金一三三万七一八八円
(二) 甲事件原告大賀静子に対して
(1) 甲事件被告田中玲子は金二〇〇万五七八三円
(2) その余の甲事件被告らは、それぞれ金六六万八五九四一円
四 争点4(乙事件原告が保険代位により取得する債権額)
争いのない事実等5記載のとおり、本件事故による田中車両の損害は金一二〇万円である。
また、甲第一一号証、乙第四号証の二、第七号証によると、田中車両の所有者は田中板金工業有限会社であること、同社の代表取締役は田中義朗であることが認められ、争点2に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する田中義朗の過失の割合を六〇パーセントとするのが相当である。
したがって、右割合により過失相殺を行うと、田中板金工業有限会社が大賀常弘に対して取得する損害賠償請求権の金額は金四八万円となり、右金額の限度で、乙事件原告は保険代位により債権を取得する。
また、争いのない事実等3記載のとおり、大賀常弘の相続人は、妻である乙事件被告大賀峯子(相続分三分の二)と、母である乙事件被告大賀静子(相続分三分の一)の両名であるから、乙事件被告大賀峯子の負担する債務額は金三二万円、乙事件被告大賀静子の負担する債務額は金一六万円となる。
第四結論
よって、甲事件原告らの請求は、主文第一項ないし第四項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、乙事件原告の請求は、主文第五、第六項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)
別表